もつれる水滴

何かがうまくいかない時、きっと何かがもつれている。
そう、今の私の心のように。

日仏共同制作、束芋×ヨルグ・ミューラ

5月15日の14時の公演を山口情報芸術センターに観に行ってきた。

束芋氏の新作。
コロナ禍で、制作が困難だった事を想像すると、この公演を開催するにあたって、どれ程の苦難があったのか、、
そんな事を考えると、オーディエンスとして、この舞台に参加出来ることはとても貴重で素晴らしい時間だと思う。

前半の白いクロスを使ったパフォーマンスと、身体表現は圧巻。
観る者の心を奪い、そのクロスと一体感を覚えるような錯覚に陥り、観る者は舞台への世界へと引き込まれていく。
その生き物のような白い布を固唾をのんで凝視する。
一時も目を離すことができない。
まるでクロスに生命が宿っているような有機的躍動は、押し寄せる波のようにも、うねる水面のようにも見える。
または、波立つ感情にも見えてくる。

パフォーマー二人の身体表現の場面では、とても鈍重に、徐々に二体の身体が接点を持ち
絡まってゆく。
それはもどかしく、どうしようもない今の自分の心境と重ね合わせて舞台を見ていた。

そう、今の私の中にも、本来ならば、真っ直ぐに下に垂れているはずの感情の糸が絡まり、もつれている。
解けた瞬間またじわっともつれて絡まり、外部的圧力で真っ直ぐに垂れ下がることを拒み、次第に絡まりもつれる…。
自分の意図ではどうすることもできない、様々な事象や事柄。

言葉に表現することが難しいのだが、最後は舞台に吸い込まれて舞台の一部となった自分がいた。

この舞台は、観賞する人で様々な解釈や意味が生まれると思う。

束芋氏は、このように語っている。
「私たちが作り出した表現は、鑑賞者の皆さんに目撃されることで完成します。
ここで初めて完成を迎える『もつれる水滴』を私たちと一緒に楽しんでいただけましたら幸いです。」と。

現代美術の醍醐味は、オーディエンスが参加して、初めて完成するものだと私も考えている。
現代美術は『難しい』という声を良く耳にするが、それらの作品は既成概念や先入観を取り払う
機会を与えてくれる。
新たな扉を開いた時、融通無碍(ゆうずうむげ)で体験したことのない世界へと、誘われるのではないか。

末松 享子


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